山科駅は運賃計算上の問題が多い駅で、地下鉄を利用して山科へ行く際に、地下鉄山科駅で降りるか京阪山科駅で降りるかのどちらかで運賃が変わってしまうのは有名な話ですが、JR山科駅では「分岐駅通過の特例」の運用上問題を抱えています。世に言う「山科問題」であります。
話を分かりやすくするために…
いくつか難しい用語が並びますが、ケーススタディを交えてわかりやすく説明します。
分岐駅通過の特例
「分岐駅通過の特例」については、JR各社が通達として出している「旅客営業取扱基準規程」「旅客営業取扱細則」*1第151条に記されています。
分岐駅を通過する列車を利用して、分岐する路線に乗り換える際、途中下車をしない限り最寄りの停車駅から分岐駅の間は運賃計算の際考えないという特例であります。
たとえば、「はくたか6号」を利用して越後湯沢から和倉温泉へ行くケースを考えてみましょう。七尾線の分岐駅は津幡ですが、「はくたか6号」は通過します。そのため、金沢へ行って折り返すことになりますが、この場合に津幡〜金沢の営業キロは加算しません。この区間の往復運賃も取られません。
つまり、本来分岐する駅を通過してしまうためにやむなく最寄りの停車駅まで行って折り返す場合、折り返す駅と分岐する駅の間の営業キロは加算しない、ということです。
これは山科駅でも適用され、山科を通過する列車を利用する場合に限り京都駅まで行って戻ることができます。
JRのものが有名ですが、私鉄でもいくつかあり、近鉄では「布施を通過する列車を利用する場合、布施〜鶴橋の往復運賃を支払わずに鶴橋まで行って折り返すことができる」*2という特例があります。
何が問題なのか?
旅客営業取扱基準規程では、「この区間で途中下車してはいけない」ということになっています。例として挙げた津幡〜金沢のケースでは、東金沢・森本で途中下車してはいけないというのはすぐ分かります。
別の例を出してみましょう。名古屋方面から新幹線で京都へ向かい、京都から湖西線に乗る、ということを考えると、乗車券は「山科まで東海道本線、山科から湖西線」という感じで出されます。この乗車券を手に入れて新幹線で京都まで行き、普通列車で山科へ向かいます。
ここで問題が発生します。「山科で途中下車はできるのか?」という問題であります。もっとも、先述の津幡駅などのように分岐駅通過の特例が適用される駅では往々にしてこのような問題を抱えているのですが、山科駅の例が有名になってしまったため「山科問題」と呼ばれています。
どのように解釈するか?
ここでカギを握るのは「区間内」という言葉をどのように解釈するか、ということです。「区間内」に両端の駅を含めるかどうか、というのが争点となってきます。実は、ここ以外でも「区間内」という言葉が多用されているのですが、どちらの意味で使われているのかに関しては一定していません。たとえば、先述の途中下車に関する規則では、「区間内」には両端の駅を含んでいません。
つまりどちらにも解釈できてしまうのです。含まないとすれば、山科駅だけでなく京都駅でも途中下車できてしまいますが、含むとすれば山科駅でも途中下車できません。ただ、実際には京都駅では途中下車できないようになっています。
乗車券に記されている経路を考えてみましょう。「山科まで東海道本線、山科から湖西線」の乗車券は、山科は区間内なので、このほかに途中下車できる条件さえ満たしていれば途中下車できると考えられます。
「約款」と「通達」の違い
また、旅客営業規則は「約款」、旅客営業取扱基準規程は「通達」という違いも、この問題を一層ややこしくしている原因となっています。どう違うかというと、早い話が対象が異なるのです。「約款」は旅客と鉄道会社が輸送契約を結ぶ*3ときの約束事で、「通達」は鉄道会社の社員に対する約束事であります。
この2つの文章の性格上、「“約款”を“通達”で規制できるのか」ということになります。「約款」が一般に公表されないといけない事柄であるのに対して、「通達」はあくまで内部文書なのです。
もし特典を認める代わりに通常の乗車券で認められる規則に制限をかける必要がある場合、そのことは前もって旅客に通知しないといけません。これも一種の「約款」と考えられます。ただ、注意書きが添付される特別企画乗車券に対して、この区間外乗車については注意書きなどがないのです。
旅客有利の扱い
また、約款の解釈に食い違いが出てしまった場合、旅客営業取扱基準規程には「旅客に有利な扱いをする」と定められています。
この例でいけば、「途中下車できる」と解釈できるし、「途中下車できない」と解釈することもできます。もちろん、別途往復運賃なしで途中下車できたほうが都合がよいのは当たり前なので、これを根拠に「途中下車できる」と考えられます。
現場では?
現場では、往復運賃なしで途中下車を認めているようです。