「まや駅」か、「摩耶駅」か

 JR西日本が、神戸市灘区の東海道線六甲道―灘駅間に新駅「まや」(仮称)を設置する方針を固めた。2016年春の開業を予定している。周辺には阪神本線西灘駅阪急神戸線王子公園駅が近接しており、各社の競争激化が予想される。

 JR西によると、予定地は灘駅の東0.9キロにある東灘信号場。周辺に住宅が密集しており、新たな乗客を獲得できると判断したJR西が設置を決めた。新駅はホームの上に駅舎のある橋上駅となる予定。周辺では、大規模マンションの建設計画も進んでいる。

 地元自治体が積極的に誘致し、設置費用の一部を負担する請願駅ではないため、建設費約40億円のほぼ全額をJR西が負担する見込み。

(「読売新聞」2010年10月7日)

 西日本旅客鉄道JR西日本)は約40億円を投じて、JR神戸線の六甲道―灘駅間(神戸市、2.3キロメートル)に新駅を設ける方針を固めた。住宅地として人気のある地域に駅を造り、大規模分譲マンションなど駅周辺の開発も促すことで、鉄道利用の拡大を目指す。競合する阪急電鉄阪神電気鉄道も利用客を奪われないために対策に動き出しそうだ。

 新駅の建設予定地は東灘信号所。駅舎が線路をまたぐ橋上駅とする予定だ。駅名は「摩耶(まや)駅」を軸に検討し、2016年春の開業を目指す。地元自治体の要望に基づく「請願駅」でなく、建設費のほぼ全額をJR西日本が負担する。

 三井不動産レジデンシャル(東京都)は新駅と直結する分譲マンション(約730戸)を建設する計画だ。新駅は三ノ宮駅までの所要時間が5分以内で済むとみられ、新駅の開発で周辺の再開発が進む可能性がある。

 同じJR神戸線で07年3月にさくら夙川駅兵庫県西宮市)を開業した際には「新駅が契機となり、地域の利便性が高まって活性化した」(地元の不動産関係者)。同駅の乗降客数は事前予想を約13%上回って推移している。阪神間は住宅地として人気が高い。JR西日本は新駅を造れば、新たな利用客を呼び込む効果が大きいと判断した。

 阪神間以外でも関西では新駅が相次いでいる。JR西日本が08年に島本駅大阪府島本町)と桂川駅京都市)を開業。阪急電鉄は3月に摂津市駅大阪府摂津市)を設けた。

 背景には関西が人口減時代を迎え、鉄道各社とも新たな需要喚起策を迫られていることがある。JR西日本阪急電鉄阪神電鉄などの輸送人員数はここ数年、低迷が続いている。近畿日本鉄道京阪電気鉄道は11年から12年にかけ、運転本数の削減に踏み出す。

 一方、JR西日本の新駅戦略は鉄道路線間の競争を激しくしそうだ。ある私鉄幹部は「資金力で勝るJR西日本に新駅を次々と造られたらひとたまりもない」と話す。

 例えばさくら夙川駅の開業で近隣の阪急夙川駅と阪神香櫨園駅の利用者が流出し、年3億円の減収につながった。新駅をにらみ、阪急阪神ホールディングスは対策を迫られるのは必至だ。すでに傘下の神戸高速鉄道(神戸市)と経営一体化に着手しており、駅管理や鉄道保守業務を効率化し、顧客サービスの向上につなげる。

 有力鉄道会社が新駅や既存のネットワークを活用したサービスの向上を競えば利用者の利便性が高まりそうだ。周辺の開発で遅れ、魅力に乏しい路線を抱える鉄道会社は一段の運転本数の削減などを迫られそうで、鉄道会社間の成長力に格差が広がる可能性もある。

(「日本経済新聞」2010年10月7日)

新しい分譲マンションを売り出すにあたって、周辺に駅があるかないかで売れ行きは大きく変わってきます。特に、阪神間の場合は梅田・三宮へのアクセスが売れ行きのカギを握ります。

灘〜六甲道にある「東灘信号場」。「東灘」といっても東灘区にあるわけではなく*1灘駅の東にあるから東灘信号場、であります*2。近くに阪神西灘駅・阪急王子公園駅*3があります。

その昔、東灘信号場から神戸港の貨物駅に向かって線路が伸びていました。全盛期には摩耶埠頭や湊川神戸駅前。現在のハーバーランドあたり)まで延びていたこともありましたが次々と廃止され、東灘〜神戸港が最後まで残り、貨物駅は鷹取に移転して廃止されたのですが、信号場はそのまま残り貨物列車などがここで待ち合わせをしています。快速がここから芦屋まで外側線を走っていた時期もありました。震災でJR神戸線が不通になってしまった際は、西側は灘まで復旧した際に、灘ではそのまま折り返しができないためこの信号場の構内配線をいじって引き上げ線にして折り返しができるようにしています。

普通、新駅を建設する場合は地元から働きかけ、地元自治体などが費用を負担して建設する「請願駅」という形をとることが多く、特に最寄りの企業が全額負担した場合はその社名がつくことが多いのですが、この「摩耶駅」は近年の新駅では珍しくJR西日本の全額負担で設置されます。というのも、JR西日本が持つ土地に新しく分譲マンションを建てることになり、その売却益で駅を作る計画としたため、神戸市などの負担は不要なのです。さくら夙川駅も似たようなもので、下を走る県道の拡幅工事の付帯工事とみなされ、補助金が出て西宮市は負担の必要がなく新駅を設置できるため、JR西日本から西宮市に働きかけて設置が決まりました。

で、駅名は漢字なのかひらがななのかは現時点ではまだわかりません。最近は、本来漢字で書くべき地名をひらがなにするのが流行っているようですが*4、読みやすいというメリットはあるもののあまり好ましい傾向とは言えません。

余談ですが、神戸港貨物駅の跡地にスカイマークスタジアムに代わる新球場を建設し、オリックスの本拠地とする構想があり、オリックスもそのつもりで西宮*5から神戸へ移転したのですが、震災でその話がなくなってしまい、結局は近鉄と合併して大阪ドームへ移転、ということになってしまいました。

*1:実際に東灘区にあるのは住吉・摂津本山甲南山手。かつては現在の東灘区は神戸市ではなかった

*2:ただし、現在の灘駅が開業するまではこちらが灘駅を名乗っていた。もともとは貨物駅で、神戸製鋼専用線もつながっており、そこから貨物輸送をしていたことがあったが、専用線もろとも貨物扱いがなくなり操車場に格下げ、貨物列車が減ってしまい信号場に格下げされて現在に至る

*3:昔はこちらも「西灘」だったが、王子公園の最寄り駅であることをアピールすることや、阪神西灘駅と区別するため改称された。ただ、「西灘」とはいっても阪神西灘駅はJR灘駅から南東にある

*4:はりま勝原」など。正式には漢字表記する駅でも、読みにくいからといって案内上ひらがなで表記することがある

*5:阪急から買収してすぐ移転したわけではなく、1990年シーズンまで西宮球場に残っていた