さらばセルアニメ

アニメはどのようにして作るのかというと、「セル」と呼ばれる樹脂製の透明シート*1に絵を描き、動きのある部分だけを差し替えて撮影するというのが主流でした。

日本でアニメが商業ベースに乗って以来、アニメはセルに絵を描いて撮影して作っており、これが1990年代まで続いていましたが、1990年代はコンピュータが急速に性能を上げてきた時期でもありました。そこで生み出されたのが、「セル画を使わず、全てコンピュータを用いて描く」つまりデジタルアニメでした。今までセル画を何枚も用いて描いていたのが、コンピュータを使うと特殊効果が簡単にできてしまうほか、塗料を乾燥させる手間がいらないためその分早く作れる、というメリットがあります。

しかし、デジタルアニメが急速に普及したのは「特殊効果を簡単にかけられる」というのもさることながら、「セル画に使うフィルムが手に入らなくなった」のが一番大きいようです。かつては富士フイルムがアニメ用のセル*2のシェアの過半数を握っていたのですが、1990年代半ばに生産を中止してしまいました。そのため、現在ではアニメ用のセルを生産しているメーカーはありません。

1990年代後半には、テレビアニメも一部でデジタル化の動きがありました。東映アニメーションはかなり早くからデジタル化に取り組んでおり、1997年には『ゲゲゲの鬼太郎(第4シリーズ)』『夢のクレヨン王国』ですでにデジタル化していましたが、他のアニメスタジオではまだセル画で製作するか、セル画とデジタル製作を併用するというのがほとんどでした。セル画の時代から放映されていたアニメも、途中で全面デジタル化に踏み切っています。『ちびまる子ちゃん』は1999年、『忍たま乱太郎』は2001年にデジタル化されましたが、2002年になると『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』『ポケットモンスター』などといった長寿アニメが相次いでデジタル化され、それ以降の新作はもちろんデジタルで制作されています。

そんな中で、『サザエさん』だけはセル製作を貫いてきました。理由としては「セル画の映像は微妙に線が揺れ、温かみのある画像になる。それが視聴者に安心感を与える」とのことですが、セル画は「ホコリが映る」「輪郭がぼやける」などの理由でハイビジョンテレビとの相性が悪く、セルの在庫が少なくなってきており、完全デジタル化も時間の問題でした。現に、オープニング・エンディング・次回予告が先行してデジタル化され、本編でも“27時間テレビ”などの特番を中心にデジタル制作をしています。2013年になると、レギュラー回でもデジタル制作の回が月に数回見られるようになりました。

そして、今日の放送をもってセル画での制作を終了し、次週からは全面デジタル化されます。

*1:「セル」というのは、かつてはセルロイド製だった名残。セルロイドは非常に燃えやすい材料だったため、アセテート(トリアセチルセルロース:TAC)に置き換えられたが、この俗称で呼ばれ続けている

*2:「フジタック」という商品名で知られており、液晶パネル用のものは現在でも製造・販売が続けられている