電気の力を見直そう

日産「ノート」e-POWERが人気です。どんな車かというと、ガソリンエンジンで発電し、その電気でモーターを回して走るというもので、この方式を「シリーズハイブリッド」といいます。電気自動車の一種としてPRされていますが、実際はハイブリッドカーであり、排ガス規制の記号も「DAA(平成17年度排出ガス規制の基準値より、有害物質を75%減らしたハイブリッドカー)」となっています。

現在市販されている自動車でシリーズハイブリッド式のものは日産ノートe-POWERだけですが、鉄道では10年以上前からあります。売り出された当初、やたらと新規性をアピールしていましたが、一目見て「JR東日本に同じようなやつがあるで」と突っ込みました。それ以前に、運動エネルギーを回生ブレーキで回収してため込むバッテリーがない「電気式気動車」というのもありました。

しかし、これ以降鉄道でも「e-POWER」方式の気動車が相次いで投入されています。

気動車の種類

気動車ディーゼル機関車には大きく分けて、電気式・機械式・液体式があります。燃料の違いで区分すると、自動車と同じくガソリン車とディーゼル車に分けられ、ガソリン機関車もあったのですが、その昔安治川口駅構内でガソリン車がポイントの途中転換により脱線転覆し、ガソリンが漏れて火災を起こしたため(ガソリンは非常に引火しやすい)、ガソリン車は禁止され、すべてディーゼル車に置き換えられています。桜島線も事故の後すぐ電化されています。

  • 電気式:ディーゼルエンジンで発電し、その電気でモーターを回して走る
    • ハイブリッド:バッテリーも組み合わせている
  • 機械式:MTの自動車と同じく、クラッチで動力を断続させて変速する
  • 液体式:ATの自動車と同じく、トルクコンバータと変速機を組み合わせている

初期の気動車は「機械式」が主流でした。構造がシンプルであり、燃費が良いという利点がありましたが、運転が難しいことや、2両以上での総括制御がしにくいということもあり、1950年代には日本の鉄道から姿を消しました。

「電気式」は、先に発展した電気鉄道の技術を流用できる、発進時から最大トルクを出せるという特性が乗り物に向いている、制御がしやすいというメリットがあり、欧米では早くから実用化が進んでいました。日本でも戦前に試作していましたが、当時の技術ではエンジンの出力が低いうえに発電効率も悪く、電車と気動車のシステムを両方積むことから重くなりすぎてしまい実用化には至りませんでした。当時は、かなり早い段階で液体式を本命としており、電気式は大容量のトルコンが完成するまでのつなぎとしか考えていなかったようでした。
海外では、強力なエンジンに合うトルコンが少ないため、ディーゼル機関車はすべて電気式です。

結局、日本の鉄道で主流になったのは「液体式」で、機械式より構造が複雑で、トルコンが滑るため効率があまり良くないというデメリットはありますが、かつての電気式気動車より効率は良く、また総括制御がしやすいというメリットもあり、一気に普及しました。一般には、気動車には一般的な自動車のATと同じ「リスホルム・スミス式」、機関車には変速比が異なる複数のトルコンを積み、速度に応じてオイルを入れ替えて走る「ホイト式」が採用されています。DD54のみ、ホンダ車のATのような「メキドロ式」を採用していました。

電気式が見直される

長らく、日本の気動車ディーゼル機関車は液体式が主流でしたが、電気式気動車ディーゼル機関車の開発をあきらめてから50年近く経過し、その間に技術革新は進みました。
ディーゼルエンジン・発電機の軽量・高効率化が進み、また電車でもVVVF制御が実用化され軽量・高出力のモーターが登場しました。さらに、鉄道業界全体の流れとして、車体にステンレス鋼やアルミ合金を用いて軽量化することが広く行われるようになりました。これにより、電気式でも液体式とさほど変わらないか、上回る性能を得られるようになりました。
また、DE50で大容量のトルコンを開発しようとしたものの、DE50自体が1両試作しただけで計画がとん挫したため、トルコンの性能は全く向上しませんでした。

さらに、電気式ゆえのメリットとして、日本の鉄道では圧倒的に多数派となった電車のシステムを流用することができるということがあります。
たとえば、JR東日本では車両は約13000両在籍していますが、気動車が占める割合は約1000両と、1割にも達していません。その少数派のためだけに、トルコンやプロペラシャフトなどを用意するとなると、新規導入時やメンテナンスのコストが余計にかかってしまいます。
また、気動車では必要不可欠なプロペラシャフトも泣き所で、JR四国で走行中にシャフトが折れるという事故が発生したこともありました。

これらのメリットにより電気式が見直されるようになり、まずはJR貨物が北海道のDD51を置き換えるためにDF200という電気式ディーゼル機関車を登場させました。かつてのDF50より、出力は3倍以上あります。北海道の貨物列車は、DD51では重連としなければならなかったところ、DF200は1両だけで牽けるようになっています(実際は、DF200の重連も冬場によく見られる)。

そして、気動車では2003年にJR東日本が「NE@train」キヤE991を登場させました。これは、電気式気動車を基本にして、減速時に回生ブレーキで回収する運動エネルギーを電気としてため込むためのバッテリーを積んだ「シリーズハイブリッド」式の気動車です。電気式気動車のメリットを生かし、電車としてのシステムは当時の首都圏での最新型だったE231系をベースとし、ディーゼル発電機で供給される電気で動かすために最適化されています。

その試験結果をもとに、2007年には世界初の営業用ハイブリッド気動車キハE200」が小海線に投入されました。その後も、リゾート列車として「HB-E300系」、仙石東北ラインに「HB-E210系」が投入されています。

ただし、ハイブリッド気動車はバッテリーを積む分コストがかかり、ローカル線で使うとなると燃費がよくなる分以上に製造コストがかかってしまうため、バッテリーを切り捨てて従来の電気式気動車と同じようなシステムにした「GV-E400系」が2019年に登場予定です。JR北海道でも、寒冷地対策を強化したH100形「DECMO(Diesel Electric Car with Motor)」をキハ40の置換え用に投入する予定です。

また、JR西日本でもひそかに開発していたようで、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」用の87系気動車ハイブリッド車として登場しました。これとはまた別に、日産セレナの「スマートシンプルハイブリッド」のようなシステム(マイルドハイブリッド)を開発してキハ122でテストをしていました。

JR四国以外は何らかの形で電気式気動車・ハイブリッド気動車を出そうとしているようです。

あちこちで導入計画があるようですが、最大のデメリットとしては「電車と気動車のシステムを積む分重くなる」ということです。GV-E400系でも、ステンレス鋼を採用し車体の各部構造を最適化して軽量化したとはいえ、キハ40と比較して4トン程度重くなっています。車体は軽量化されているため、電車のシステムを追加した分の重量増はそれ以上になっています。