果たして値下げは実現するか

 神戸市北区の谷上と都心の新神戸を結ぶ北神急行電鉄(同市北区)の市営化に向け、神戸市が親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)傘下の阪急電鉄と事業譲渡の協議を近く始めることが26日、関係者への取材で分かった。相互乗り入れする市営地下鉄西神・山手線の一部とすることで運賃を大幅に下げ、谷上でつながる神戸電鉄沿線も含めた郊外の開発を加速させる狙いがあるとみられる。

 北神急行は路線のほぼ全てを六甲山を貫くトンネルが占め、新神戸-谷上間(約7・5キロ)を8分で結ぶ。北摂・北神エリアからの通勤、通学者らにとって利便性が高い半面、700億円を超える膨大な建設費の影響で初乗り運賃が360円と高く、利用が伸び悩む要因になっている。

 乗客の負担軽減を図るため、県と神戸市は1999年度から全国初の民間鉄道への支援策として補助金を投入。本来430円となる初乗り運賃を80円値下げして350円(消費税増税で現在は360円)にしている。補助金は99~2008年度が年2億7千万円ずつ、09年度以降は1億3500万円ずつを県、市で捻出している。

 しかし、開通当初に需要を見込んだ神戸市北部から三田方面にかけたニュータウンの開発は減速し、JR宝塚線の利便性向上などもあって乗客は低迷。市営化で運賃の引き下げや事業の効率化を図り、郊外の人口増につなげたい考えだ。

 市営化が実現した場合、地下鉄西神・山手線の一部として運行される可能性が高い。同市交通局の料金体系に当てはめると、新神戸-谷上間は270円になる。運賃の大幅な値下げや宅地開発などで周辺人口が増えれば、阪急側にとっても主要駅である神戸三宮(同市中央区)の乗降客の増大などのメリットがある。

 今後、事業譲渡する範囲や金額などについて協議し、1~2年以内の実現を目指すとみられる。

 神戸市と阪急電鉄を巡っては、同市営地下鉄西神・山手線阪急神戸線の相互直通(相直)構想について、17年度から本格協議を進めている。(石沢菜々子

北神急行電鉄】 阪急電鉄神戸電鉄が株主となり、1988年4月に開業。新神戸-谷上間(約7・5キロ)で、起点と終点の2駅のみ。2002年にトンネルや軌道を神戸高速鉄道に譲渡。07年に阪急電鉄の親会社である阪急阪神ホールディングス連結子会社になった。乗客数はここ数年横ばいで、17年度は908万人。17年度決算では売上高22億円、経常利益2億円。負債総額は413億円となっている。

 都心部へのアクセスのよさを生かし、人口減少に歯止めをかけることができるのか。北神急行(神戸市北区)の事業譲渡に向け、阪急電鉄との協議に乗り出す神戸市。民間鉄道の市営化という全国的にも異例の対応を目指す背景には、他路線に比べて高額な運賃が郊外の開発のネックになっている現状がある。

 北神急行の利用者負担は、全国で最も高いとされる初乗り運賃(360円)にとどまらない。例えば、神戸電鉄箕谷駅から谷上駅で北神急行に乗り換え、三宮に向かう場合、乗車時間は10分程度だが、神鉄北神急行、相互乗り入れする市営地下鉄それぞれの初乗り運賃がかかるため計710円になる。JRなら三ノ宮から加古川市大阪府茨木市までの運賃に匹敵する。

 同市の今年1月時点の推計人口を区別で見ると、北区は2017年の1年間で1921人減り、ここ数年千人以上の減少が続く。一方、都心部中央区では千人以上の増加が目立つ。高額な鉄道運賃もあり、中央区まで電車で10分程度という好立地を生かせていない。運賃問題は長年の懸案となっており、市営化によって抜本的な解決を目指すとみられる。

 同市の久元喜造市長は「(北区など)人口減少が目立つエリアに政策的に対策を行う必要がある」として誘導策を強化。9月には、北区役所と商業・業務施設が入る再開発ビルが神鉄鈴蘭台駅前にオープンしたほか、同区内にある全国最大規模の市営住宅「市営桜の宮住宅」(60棟、2299戸)の建て替え工事が進む。同区北部の北神支所を区役所に格上げすることも決まるなど人口誘導に向けた対策が本格化している。

 ただ、市営化の実現に向けて課題もある。北神急行は神戸市の外郭団体である神戸高速鉄道に軌道やトンネルを譲渡して経営を維持してきた。同市と阪急電鉄との協議では事業譲渡の範囲や金額などについて交渉するとみられるが、市営化に向けた市民の理解を得ることも必要になる。(石沢菜々子

(『神戸新聞』2018年12月27日)

果たして、これが有効な手段かどうかはわかりませんが、北神急行の高すぎる運賃問題の解決策として「市営化」は一つの答えではないかと思います。

もともと、神戸市営地下鉄新神戸*1から先の計画は青谷や王子動物園へ向かって(市バスの2系統に沿って)延伸するというのがあり、新神戸駅は新幹線と平行に設置される予定でした。
その一方で、北区(主に箕谷・谷上)から神戸の都心(≒三宮)へ出るには、鈴蘭台湊川・新開地を経由する必要があり、遠回りを強いられていました。そこで、谷上から六甲山を貫いて新神戸までまっすぐ抜けるルートが計画されました。これが北神急行の原型で、地下鉄に乗り入れることになり、新神戸駅も当初の位置から変更され、新幹線の下をくぐるようになりました。

意外なようですが、この計画に神戸市は全くかかわっていません。阪急と鉄建公団が建設費を折半しており、現在の北神急行第三セクターではなく純民間会社です。当初、神戸電鉄の新線として建設することも考えられていたようですが、六甲山に7km以上の長大トンネルを掘ることから、神鉄単独ではとても建設費を賄うことができないと判断されたのか、阪急などの出資を仰いだうえで北神急行電鉄という新会社を設立して建設に当たりました。
また、建設にあたっては公団の「P線」方式がとられ、日本政府からも建設費が賄われており、25年かけて建設費を償還することになっています。

六甲山に7km以上のトンネルを掘ったことから、莫大な建設費がかかり、そのせいで7.5kmしかないのに運賃は430円という非常に高い設定となっています。また、沿線の住宅開発が遅れたことや、JR西日本福知山線の輸送力増強に力を入れたことから、思い通りに乗客が増えず、償却費用ばかりが増えて債務超過に陥ってしまいました。

そのため、1999年には兵庫県・神戸市が補助金を出したうえで運賃を350円に値下げしましたが、それでも焼け石に水で、2002年にはインフラ一切を神戸高速鉄道に譲渡したうえで、運行のみ行う「上下分離方式」を導入しました。
それでも根本的な解決にはなっていないようで、ついには神戸市から阪急に対して事業譲渡の申し入れがあり、神戸市営地下鉄の一路線にして運賃を大幅値下げすることが期待されています。

さて、このタイミングでなぜ北神急行電鉄を市営化するのか、ということですが、これは神戸高速鉄道北神急行のインフラを買い取ってから保有するのが、20年間の時限措置というのが関係しているのではないかと思います。2002年4月1日付で神戸高速鉄道が買い取っており、2022年3月31日まで保有するということになります。これ以降は、阪急が債務もろとも引き受けることになるのですが、これを嫌がって神戸市に引き取ってもらおうという魂胆が見え隠れします。これだけで阪急にはかなり大きなメリットがあります。

それでも、運賃が大幅値下げとなるとインパクトは大きいものです。北神急行自体の運賃が高い*2のもさることながら、新神戸以西まで乗る場合は新神戸でいったん区切って、それぞれで運賃を計算して合算するためなおさら高く見えてしまうのも問題です。乗り継ぎ割引が30円あるとはいえ、かなり高くなっています。
運賃体系がどうなるかはわかりませんが*3、仮に地下鉄の運賃体系にそのまま組み込んだ場合、以下のようになります。

谷上から Before After
新神戸 360円 270円
三宮 540円 270円
湊川公園 560円 310円
新長田 600円 340円
板宿 600円 370円
名谷 670円 400円
園都 700円 430円
西神中央 730円 460円

谷上から三宮まで10分、10km足らずですが、運賃は540円かかります。これが、現行の運賃体系では半額になるため、インパクトは相当なものです。

同じような事例が大阪でもあり、かつてあった「大阪港トランスポートシステムOTS)」の「南港・港区連絡線*4」が、既存の地下鉄線・ニュートラムとは別会社*5のために運賃が別建てになり、地下鉄は大阪港、ニュートラムは中ふ頭でいったん区切って運賃を計算しなければならないことから運賃が非常に高くなって乗客数が低迷し、最終的にどちらも市営化して運賃を通しで計算できるようにして値下げを果たした*6、というケースがありました。
しかし、OTS大阪市第三セクターなので市営化はスムーズに進みましたが、北神急行は純民間資本の会社です。「純民間会社に税金を大量につぎ込んで市営化するのはいかがなものか」という議論も出てくると思います。

また、ただでさえ乗客の減少に悩まされている神戸電鉄が、北神急行の市営化による値下げでさらに乗客が減ってしまうということも考えられます。

このように、市営化していいことばかりかというとそうでもなく、考えれば考えるほど問題点が見つかります。しかし、1つだけは確実です。それは、「NEW Uラインカード」が谷上まで使えるようになるということです。

*1:開業前の仮称は「布引」だった

*2:といっても、1km当たりの単価は近鉄の初乗り運賃と大差ない

*3:事業譲受を機に全線で運賃を値上げするか、地下鉄の運賃はそのままでも北神線を利用する場合は加算運賃を課されることも考えられる

*4:現在は、大阪港~コスモスクエアが中央線の一部、コスモスクエア~中ふ頭がニュートラム南港ポートタウン線の一部

*5:何もなかったところに線路を引いたため、公共輸送ではなく利益誘導とみなされて補助金が出ず、市営では建設できなかった

*6:さらに、大阪メトロでは市営時代から地下鉄とニュートラムの運賃体系が統一されており、コスモスクエアで地下鉄とニュートラムを乗り継いでも通し運賃で乗れるようになったほか、大阪港と中ふ頭をまたぐと下車駅で自動改札機がエラーを起こすということもなくなった