第1回 全国47都道府県 これを禁止されたらその県民は死ぬ世界選手権 最終結果。
— 咲来さん@8月末留萌予定 (@sakkurusan) 2020年3月14日
都道府県ごとに禁止されたら県民のメンタルや、経済面で死ぬものを皆様の投票で選んだ結果こうなりました。ご参加くださった皆様、本当に感謝いたします。ありがとうございました。 pic.twitter.com/8DofqjnqMZ
Twitterにて、このような企画がありました。各都道府県で「これを禁止されると困る」というものを1つずつ挙げていくというものです。
その中で、奈良県は近鉄を利用することを禁止されると困る、と言われました。確かに、奈良県では鉄道といえば近鉄でJRの影は薄く、鉄道以外でも近鉄グループ(奈良交通・近鉄百貨店・近商ストアetc.)が幅を利かせているという状態です。
今日は、奈良県では如何に近鉄が強いかというのを、様々なデータを示しながら紐解いていきます。
奈良県内各駅の乗車人数
出典:「奈良県統計書(2018年度版)」
まずは、わかりやすい指標として各駅の乗車人数を記します。奈良県内の鉄道路線は近鉄とJRだけで、2社の比較という意味も持たせるため、両社が乗り入れている駅でも社ごとに分割して記します。
駅名 | 会社 | 路線 | 1日平均乗車人数 | |
---|---|---|---|---|
1 | 近鉄奈良 | 近鉄 | 奈良線 | 33,818 |
2 | 学園前 | 近鉄 | 奈良線 | 26,649 |
3 | 王寺 | JR西日本 | 関西本線・和歌山線 | 24,366 |
4 | 大和西大寺 | 近鉄 | 奈良線・京都線・橿原線 | 23,733 |
5 | 生駒 | 近鉄 | 奈良線・生駒線・けいはんな線 | 22,808 |
6 | 高の原 | 近鉄 | 京都線 | 19,007 |
7 | 大和八木 | 近鉄 | 大阪線・橿原線 | 18,718 |
8 | 奈良 | JR西日本 | 関西本線・桜井線 | 18,307 |
9 | 富雄 | 近鉄 | 奈良線 | 14,833 |
10 | 五位堂 | 近鉄 | 大阪線 | 14,235 |
ベスト10を取り上げましたが、その中にはJRは2駅だけで、残りはすべて近鉄です。「奈良駅」同士で比較しても、近鉄の方がJRの2倍近い利用客数があります。
このデータで、「奈良県では鉄道といえばJRではなく近鉄」という表面的な事実は分かります。なぜこのようになったのかは、現在のJRと近鉄のダイヤと、奈良県の鉄道の歴史から紐解くことができます。
大和八木駅の乗車人員について
各種統計(近鉄の交通調査・奈良県統計書)において、大和八木駅の乗車人員には八木西口駅の乗車人員を含めています。これは、旅客営業上は八木西口駅は大和八木駅構内の別ホーム扱いとされているためです。
かつて、現在の大和八木駅に相当する駅はなく、開業当時の高市郡八木町の西側に、「大和」が付かない「八木駅」が設置されました。開業当初は畝傍線(現・近鉄橿原線)のみの駅でしたが、開業後ほどなくして現在の大阪線の一部となる「八木線」が、八木駅から大和高田駅まで開業しました。
ちなみに、大阪線の八木以西は布施と八木の両方から延伸し、1927年に布施~八木の全線が開業しています(上本町~布施は1914年に奈良線の一部として開業済み)。
1929年に、伊勢方面への延伸の一環として桜井まで延伸された際、延伸区間と畝傍線の交差地点に現在の大和八木駅が開業しました。旧八木駅の移転扱いとされており、通常であれば旧八木駅は廃止されるはずですが、「八木西口」と名前を変えた上で残されました。
これは、当時は国を挙げて橿原神宮への参拝が奨励されており、この需要に応えるために上本町~橿原神宮前の直通列車が多数運行されていて、旧来の利用客に配慮したためと言われています。その名残か、1967年までは上本町~八木西口の準急が夕方に運行されていました。
このような背景もあり、八木西口駅は大和八木駅の構内扱いとして残されています。そのため、大和八木駅発着の乗車券で八木西口駅を利用することができます。八木西口駅としての営業キロは設定されておらず、大和八木駅の営業キロ(西大寺から20.5km、上本町から大阪線経由で34.8km)*1を用いて運賃計算を行います。
なお、入場券は列車に立ち入ることができない切符なので、大和八木~八木西口のみ利用する場合でも入場券で乗ることはできず、初乗り運賃の切符を買う必要があります。
切符に関しては、21世紀初頭までは八木西口からの切符を買っても発駅が「大和八木」となっていましたが、2020年現在では「八木西口」になっています。
八木西口駅に関しては、奈良県立医科大学のキャンパスが移転するのに合わせて800m南側に新駅を設置するという構想があり、大和八木駅に近すぎることから新駅の開業に合わせて廃止するという案が出ています。しかし、八木西口駅は橿原市役所や畝傍高校に近く、その関係の利用者が多いため、橿原市としては廃止に反対、といった感じで、奈良県・橿原市・近鉄の三者協議を始めてから4年以上に渡って結論が出ていません。
廃止となった場合、運賃計算の特例(大和八木駅の営業キロを使用する)も廃止されて新駅の営業キロが設定されるか、それとも新駅にその特例が受け継がれるでしょうか。
「八木西口駅」廃止か存続か 近鉄と橿原市協議1年、なお平行線
橿原市の県立医科大学付属病院前に設置が計画されている近鉄橿原線の「病院前新駅」。だがこれに関連し、約800メートル北に位置する八木西口駅の存廃をめぐる近鉄と県、市の3者協議は、1年を超えた今も平行線のままだ。関係者は「長期戦になる」との見通しを示している。
「医大・付属病院を核とするキャンパスタウンの形成」を掲げる市は、新駅周辺に商業や福祉・文化ゾーンなどの設置を構想。医大は平成33年までに現在地の西約1キロに移転する予定で、アクセス道路となる市道の拡幅整備も計画されている。
新駅の設置予定地は、近鉄橿原線が国道陸橋と立体交差する付近。北約800メートルにある八木西口駅は、その北の大和八木駅まで約400メートルと近いため、近鉄は新駅設置に伴い八木西口駅の廃止を求めている。
一方、市は近隣住民の利便性などから存続を希望。八木西口駅は市役所本庁舎まで徒歩2~3分で、市役所や医大付属病院を訪れる人のほか、県立畝傍高校生らも利用している。国の重要伝統的建造物群保存地区の今井町への最寄り駅でもあり、1日の利用者は約5千人という。
だが、新駅設置のため27年12月から始まった県、市、近鉄の3者協議は、「八木西口駅に関する話し合いは平行線をたどっている」(市関係者)状況。「今のところ、まとまる見通しはたたない」との声がある一方、「駅運営経費で橿原市が応分の負担をすれば存続は可能」「残るにしても、すべての電車が停まるのは難しい」などといった見方もある。
市は医大前新駅とその周辺整備のほか、市役所本庁舎整備、大和八木駅北側整備を「3大事業」として整備構想の検討を進めている。本庁舎整備では、長年の課題だった民有地買収交渉がまとまり、八木西口駅の存続は「重要課題」として展開が注目されている。
(「産経新聞」2017年1月5日)
近鉄とJRのダイヤの比較
奈良県で近鉄が選ばれる理由として、「近鉄はJRと比較して運行本数が多い」ということが挙げられます。
奈良県内の近鉄・JR各路線の1時間ごとの運行本数は以下の通りです。
近鉄奈良線
(特急、大和西大寺から京都方面へ行くものは除く)
普通と区間準急のダイヤがいびつな形になっているのは、西大寺で折り返す際に尼崎系統は区間準急から普通に、難波系統は普通から区間準急に変わるためです。
国鉄は奈良県内の路線を冷遇していた
奈良県内におけるJRと近鉄の格差の要因は、「国鉄が伝統的に奈良県内の路線を冷遇していた」ということにつきます。正確には「天王寺鉄道管理局の路線を冷遇していた」ということです。
奈良県内の国鉄線は最初から国鉄線として開業した路線はなく、奈良鉄道・大阪鉄道(初代)*2・関西鉄道などといった私鉄を1907年に国有化した路線であり、国鉄からすれば「外様」と言えます。
それ故に複線化・電化などの設備投資が進まず、複線化こそ関西本線で国有化前に実施されただけで、電化は1973年に湊町(→JR難波)~奈良で実施されるまで全く実施されていませんでした。
後に1980年に桜井線・和歌山線(高田~五条)が電化され、1984年に和歌山線の残りの区間と奈良線、関西本線(奈良~木津)が電化されて奈良県内の国鉄線は全線電化を達成しました*3。但し、複線化は関西本線以外では全く行われていません。
それに対して、近鉄は最初から複線電化で開通した路線が多く、また高度成長期における輸送力の増強も積極的に行ってきたため、現在でも近鉄の方が利用しやすいようになっています。
今でこそ、JR西日本は関西本線の一部区間に「大和路線」という名前を付けて「大和路快速」を走らせるなどの積極策をとっていますが、国鉄時代より多いとはいえ最近になって再び本数が減らされています。輸送力を増強しようにも、国鉄時代に設備投資を怠ったためにインフラが貧弱で、近鉄に十分対抗できるだけの競争力を持たせることができません。