今年は、未開拓だった京阪大津線系統の車庫を見に行きました。
「響け!ユーフォニアム」号
今年の見どころは、何と言っても619F「響け!ユーフォニアム」号です。近年、京阪はアニメ(主に京都アニメーション作品)とのコラボに力を入れていますが、例え本線系統の路線の沿線が舞台であっても、ラッピング車を走らせるのは決まって石山坂本線です。
619号車には川島緑輝(コントラバス)と高坂麗奈(トランペット)、620号車には黄前久美子(ユーフォニアム)と加藤葉月(チューバ)が描かれています。
もちろんヘッドマークも付いており、当日はたまたま緑輝(サファイア)の誕生日だったためスペシャルバージョンのヘッドマークが付いていました。
石山坂本線で見られる「窓から顔や手を出さないでください」の表示は、後輩4人と“チューバくん”のスペシャルバージョンでした。ただし、「走行中は通らないでください」は他の車両と共通でした。
黄前久美子「窓から顔や手を出しちゃダメだよ」
加藤葉月「窓から顔や手を出しちゃダメなんだよね」
川島緑輝「窓から顔や手を出しちゃダメですよ」
高坂麗奈「窓から顔や手を出しちゃダメ」
チューバくん「窓から顔や手を出さないでください」
大津線の車両
600形(3代目)
大津線初の冷房車として、1984年から投入されました。車体は260形・300形のものを流用し、足回りは6000系に近いものに改められています。そのため、定速制御(15~70km/h)ができます。
大津線は急カーブが多いうえに、浜大津付近の併用軌道での制約があるため、車体の全長が15mに抑えられています。そのため床下に十分なスペースがなく、冷房用の電源を確保できなかった(電動発電機を載せられなかった)ため冷房化ができませんでした。600形では、小型で大容量のインバータ(SIV:静止型インバータ)を用いることで冷房化を達成しています。京阪初のSIV搭載車*1でもあります。
登場当時、大津線系統の1500V化が具体化しておらず、700形の登場後に足回りを1500V対応にしたため、登場当初とは足回りが変化しています。
初期の4編成は正面の窓が平面でしたが、609F以降はパノラミックウィンドウに変更され、700形にも受け継がれています。
700形(3代目)
大津線系統の1500V化は、京津線の部分廃止・東西線への乗り入れが決定したことで具体化し、1500Vに対応する車両が必要となりました。当初、600形(621~)として計画されていましたが、変更点が非常に多かったため、新形式が起こされました。
1500V化が具体化してから設計されており、当初から昇圧対応を容易に行えるよう設計されています。登場後、600形も足回りを700形にそろえられました。
600形もそうですが、クーラーは6000系のもの*2を流用しています。
600・700形の定速制御は、マスコンで速度を指定してやる方式です。マスコンには「B(抑速ブレーキ)」「OFF」と走行速度の目盛が刻まれており、走行したい速度に合わせるとその速度まで加速し、速度が落ちると自動で加速、上がるとブレーキがかかるようになっています。改修前の初代3000系も同じタイプでした。
「B」は、かつて京津線で使用されていた時代は府県境越えや蹴上の坂を下る際によく使っていましたが、現在でも四宮まで貸し切り列車として足を伸ばすことがあるため、その時に使われているようです。
1000系・2600系と同様に旧型車の車体を修繕して作られていますが、書類上、車体の流用元の車両は廃車して改めて新造した*3ということになっています。書類上の扱いも2600系などと同じです。
ドアチャイムは、東武50000系などと同じものが使用されています。
800系(2代目)
京都市営地下鉄東西線の計画では、重複する山科~三条の扱いが協議されましたが、最終的には御陵~三条を廃止して東西線に乗り入れる*4という形で決着しました。
ただ、地下鉄に直通するに当たってはこれまでの大津線系統の車両では対応できないため、対応する車両を新造することになりました。これが800系です。
800系には、京阪初となる装備が盛り込まれています。
- IGBTインバータ(本線では10000系以降)
- シングルアームパンタグラフ(地下鉄と併用軌道では架線の高さが大きく異なり、それに対応するため。本線では新3000系のみ)
- LED方向幕(京阪唯一の3色LED表示器。本線では新3000系より採用されるが、フルカラーに進化した)
また、両先頭車には9000系と同等のセミクロスシートが採用されています。9000系は全席ロングシートになりましたが、800系のは健在です。
京津線は、浜大津を出ると国道161号線の上を走り、府県境(逢坂山)越えで61パーミルの急こう配、そして御陵からは地下鉄乗り入れ(しかもホームドア付き)と、同じ路線でありながら地下鉄・登山電車・路面電車という3つの顔を持つ路線となっています。これらすべてに対応する必要があるため、近年の電車にしては非常にコストが高くなっています。車両価格を1m当たりに換算すると、500系新幹線に匹敵するとも言われています。
急こう配を走る電車でありながら、抑速ブレーキがありません。通常はマスコン(近鉄など)かブレーキレバー(大阪市営地下鉄・JR西日本など)のどちらかに「抑速」ポジションがあるのですが、どちらにもありません。
本来、併用軌道での列車の全長は30m以内に抑えなければならないのですが、京津線では特別に認可を得て66mもある800系を走らせています。
現状では京津線専用ですが、試運転で浜大津~坂本を走ることがあります。
製造中、E3系と並んだことがあります。
とんでもない誤植
600・700形の方向幕です。本線のはダイヤルを回して種別・行き先を別々に設定するのですが、大津線のはボタンを何度も押して目的の表示にします。かつては本線のも種別・行き先が一体化していました。
1997年までは、京津線にも優等列車がありました。1981年までは急行・準急・普通の3本立てであり、急行は山科で普通を追い越していたほか、石山寺まで直通していました。1981年以降は準急・普通の2本立てとなり、全線直通が準急、三条~四宮の区間運転が普通でした。準急は三条~御陵*5がノンストップで残りは各駅停車でした。かつては四宮より東を走行する列車が全て準急で揃えられていたことがあり、四宮~浜大津の準急もありましたが、各駅停車だったため、1987年のダイヤ改定で「普通」*6に変更されました。
また、種別表示のない「浜大津」の表示もありました。かつて石山坂本線で坂本~浜大津の区間列車が設定されていた名残*7とも、下り準急が四宮から各駅停車区間に入ってから使っていたともいわれています。
準急は、本線・京津線ともに「SUB-EXPRESS」*8ですが、どういうわけか「SUB-ETPRESS」と誤植されていました。
旧特急カラー
2012年より、大津線開業100周年を記念して603Fが旧特急カラーに塗られています。大津線では、かつて260形・300形が1970年代まで旧特急カラーで走っていました。603Fは、300形の車体を大改造して製造されています。
8000系が全編成塗りなおされ、初代3000系が引退した今、京阪で旧特急カラーに塗られているのは603Fと男山ケーブルだけです。
本線上で折り返し
昼間の石山坂本線は、全線を走破する列車と石山寺~近江神宮前の区間列車の2本立てです。かつては全線を走破する列車しかなかったのですが、2003年のダイヤ改定*9で石山寺~近江神宮前の区間列車が新設され、この区間では本数が倍増しました。
浜大津や枚方市などと違って引き上げ線がなく、また下り線から車庫に直接入れないため、近江神宮前に到着後下り線を坂本方へ少し走り、本線上で停止して向きを変え、坂本からの石山寺行き電車が出発するのを待って渡り線を通り、上り線に入って石山寺行きに変わります。
同じことは阪急三宮駅や飾磨駅などでも行われています。かつては調布などでも行われていました。
ちなみに、この列車は坂本ケーブル風の塗装になった611Fで、もともとは2007年に坂本ケーブル80周年を記念して施されたものですが、8年経っても文言を微修正しただけで走り続けています。
*1:本線では2400系の更新工事で初めて採用され、新造車には7000系以降で採用される
*2:6000系は当初、三菱CU-197(10500kcal/h)を搭載していたが、冷房能力が不足気味だったため東芝RPU-3042(11500kcal/h)に交換された。ただ、それでも足りないため6012Fから東芝RPU-3043(13000kcal/h)に変更され、最初の11編成もこれと同等の能力を持つ東芝RPU-3048に交換された。600・700形には東芝RPU-3042を流用した
*3:その一方で、700形の車体流用元の500形は、書類上260形の改造扱いになっていた
*4:当初、山科~三条を廃止して山科から乗り入れるという案が示されていたが、東西線のルート(JR山科駅の北側で南に曲がり、東海道本線をくぐって京都府道外環状線の下を通る)の都合上山科からの乗り入れが不可能になったため、御陵から乗り入れるように変更された。当初計画の名残で、東西線の山科駅と京阪山科駅が併存してしまい、運賃面での問題が生じた
*6:80形を使用する場合はそれ以前から「普通」だった
*8:他社では「SEMI-EXPRESS」で、「SUB-EXPRESS」は区間急行のことだが、京阪ではどういうわけか逆になっている
*9:本線・大津線での同時改定は1987年(三条駅地下化に伴う、本線・京津線相互間の連絡時間をとるためのダイヤ改定)を最後に行われていない