JR東日本エリア内の東海道本線の車両基地は、田町車両センターと国府津車両センターがありました。このうち、田町車両センターの場所にはかつて田町電車区・品川客車区・東京機関区がまとまって立地しており、都心に大規模な車両基地が立地するという形になっていました。1999年に田町電車区に統合され、211系などが所属していましたが(113系・E231系は国府津)、上野東京ラインの開業に伴い、東海道本線の電車を郊外の車両基地(小金井・籠原・東大宮etc.)で留置できるようになり、田町電車区は東京総合車両センター(旧山手電車区・大井工場)に統合され、所属していた車両は国府津車両センターや大宮総合車両センターに転属しました。
これに伴い、必要最低限の規模まで縮小して広大な土地(10~15ヘクタール)が空くため、JR東日本は空いた土地を再開発し、その地区の玄関口となる駅を山手線・京浜東北線に設置する構想をぶち上げました。そして先日、その駅名が「高輪ゲートウェイ」と決定しましたが、これがかなり不評で、JR東日本に対して撤回を求める署名活動までされています。
ここ最近、横文字交じりの駅名はそう珍しいものでもないので、駅名に横文字を入れること自体の是非を話したいのではありません。ここで問題なのは、なぜ「ゲートウェイ」なのか、そして駅名を公募した意味はあったのか、ということです。
再開発エリアの名称は「グローバルゲートウェイ品川」とされており、これにちなんで「ゲートウェイ」を入れたというのであれば何となく理解できます。しかし、再開発エリアの名称自体があまり知られていません。また、駅名は公募したとはいえ、「高輪ゲートウェイ」はわずか36票、130位でした。
なお、ベスト10は以下の通りです。
- 高輪(8398票)
- 芝浦(4265票)
- 芝浜(3497票)
- 新品川(2422票)
- 泉岳寺(2422票)
- 新高輪(1275票)
- 港南(1224票)
- 高輪泉岳寺(1009票)
- JR泉岳寺(749票)
- 品田(635票)
しかし、いろいろな事情があって、上位の候補を採用できるとは限りません。
たとえば「泉岳寺」の場合、過去に地下鉄の駅名に「泉岳寺」を使用したところ、泉岳寺(寺院)から「駅のことなどでしょっちゅう電話がかかってきて、業務の妨害になる」というクレームが付き、訴訟にまで発展したというケースがありました。そのため、訴訟を起こされるリスクを避けるという意味で「泉岳寺」は使えないでしょう。また「高輪」だけだと品川駅の高輪口や地下鉄の「高輪台」と混同される、かつて京急に高輪駅があった、「芝浦」は本来の芝浦地区と離れている、かつて「芝浦」という貨物駅があった、「品田」は品川と紛らわしい、などという理由で、上位にはあまり良い候補がなかった、いえます。
また、情緒的なものとしては、山手線の駅名は長くても漢字4文字(新大久保・高田馬場・西日暮里)以内に収まっているのに対して、そこに横文字交じりの長い駅名が入ると違和感がある、というのもあります。
同じような系統の駅名としては、長堀鶴見緑地線の「大阪ビジネスパーク」がありますが、これは再開発に着手してから駅ができるまでにある程度の期間があり、地域一帯を表す名称として定着してから駅ができたため、あまり違和感なく受け入れられています。翌日に駅名が発表された、日比谷線の「虎ノ門ヒルズ」駅と同じような感じです。
しかし、「高輪ゲートウェイ」はイメージ先行の駅名であり、しかもそのイメージがかなりぼんやりとしたものであるため、批判の対象になっているといえます。
なお、私はどちらかというと「港南高輪」のほうが良いと思います。駅の予定地は「港南」ですが、高輪にも近いため両方くっつけました。
駅名にカタカナなどが入るケース
2…企業名が入る
同じ地区に同名の駅が複数あり、区別するために社名を入れるというケースは少なく(大井川鉄道の「アプト」が付く駅程度)、駅の設置費用を企業がある程度負担した場合に、最寄の企業名を入れるという形で見られます。
- スクリーン(近江鉄道多賀線、大日本スクリーン製造)
- フジテック前(近江鉄道本線)
- 京セラ前(近江鉄道本線)
- ジヤトコ前(岳南鉄道)
- 富士フイルム前(伊豆箱根鉄道大雄山線)
- アスモ前(天竜浜名湖鉄道、デンソーと合併したため駅名のみ残った)
- インテック本社前(富山ライトレール)
ほか多数
3…最寄りの施設名が入る
これが最も多いパターンです。
- サッポロビール庭園(千歳線、上記「2」のパターンにも該当する)
- ドーム前千代崎(Osaka Metro 長堀鶴見緑地線、旧「大阪ドーム前千代崎」)
- ナゴヤドーム前矢田(名古屋市営地下鉄名城線・名古屋ガイドウェイバス)
- ユニバーサルシティ(JRゆめ咲線)
- ハウステンボス(大村線)
- スペースワールド(鹿児島本線、スペースワールド自体は閉園済み)
- あしかがフラワーパーク(両毛線)
- ハーモニーホール(福井鉄道福武線)
- 富士急ハイランド(富士急行)
- 尼崎センタープール前(阪神本線)
- ポートターミナル(ポートライナー)
- フェリーターミナル(Osaka Metro 南港ポートタウン線)
- 池の浦シーサイド(参宮線*1)
ほか多数
4…再開発エリア・ニュータウンの名称が入る
首都圏や関西圏でよく見られるパターンです。
- 高輪ゲートウェイ(山手線・京浜東北線)
- 東京テレポート(りんかい線)
- 天王洲アイル(りんかい線)
- 品川シーサイド(りんかい線)
- 越谷レイクタウン(武蔵野線)
- ささしまライブ(あおなみ線)
- 大阪ビジネスパーク(Osaka Metro 長堀鶴見緑地線)
- ハーバーランド(神戸市営地下鉄海岸線)
- オレンジタウン(高徳線)
このほか、分類しにくいケースとしては「広川ビーチ(紀勢本線)」があります。あえて分類するならば「イメージ先行型」でしょうか。
番外…ひらがな・数字・アルファベットが入る場合
ひらがなを使うのは、漢字だと読みにくい、読み間違えられる恐れがある場合や、柔らかいイメージを出すのが目的ですが、前者はともかく後者は何かと批判されがちで、一時期ひらがなを多用していたJR西日本も、ここ最近は本来の漢字を使う方針に回帰しています。また、正式な駅名は漢字でも、読み間違えられやすいなどの理由があって営業上はひらがなを使うようにしていることもあります。
- なんば(南海電車・Osaka Metro)…「難波」は「なにわ」とも読めるため
- かつては近鉄も「なんば」と書いていたことがあった
- あびこ・なかもず(Osaka Metro 御堂筋線)…読みにくいため
- 中百舌鳥駅は社によって表記が異なり、Osaka Metroはひらがなで「なかもず」*2、南海電車は漢字で「中百舌鳥」*3、泉北高速は漢字かな交じりで「中もず」となっている
- なにわ橋(京阪中之島線)…本来の漢字は「難波橋」だが、大阪ミナミの難波(なんば)と混同して「なんばばし」と読み間違えやすいため
- だいどう豊里(Osaka Metro 今里筋線)…駅がかつての西成郡大道村と豊里村の境界線上にまたがっており、さらに現在の地名は「大桐」のため、「だいどう」をひらがなにした
- なお、Osaka Metroで正式な駅名がひらがなになっているのは意外にもこの駅だけ
- さっぽろ・新さっぽろ(札幌市営地下鉄)…JRの駅と近接しており、区別するため
- あしかがフラワーパーク(両毛線)…施設名と合わせたため
- いりなか(名古屋市営地下鉄鶴舞線)…本来は「杁中」と表記するが、「杁」が常用漢字ではなく、尾張地方でしか見かけないため
- うすい(京成本線)…本来は「臼井」と表記するが、漢字が似ている北総線の白井駅と区別するため
- みなとみらい(横浜高速鉄道みなとみらい線)
- 再開発エリアの名称であると同時に、横浜市西区に存在する正式な地名でもある
- 名古屋市営地下鉄の切符(券面のみ、一部または全部をひらがなで書く)
また、アルファベットが入るのはJR西日本の関西エリアの一部駅、京急の「YRP野比」、広島電鉄の「JA広島病院前」だけです。JR西日本の場合、近隣に同名の私鉄駅がある場合に区別するためにつけています。YRP野比駅は近所の「横須賀リサーチパーク」から、JA広島病院前駅はズバリ「JA広島総合病院(広島県厚生農業協同組合連合会 廣島総合病院)」からです。
さらに、数字が入る駅となると、札幌市内での「○条」駅か(京都では漢字で書く)、羽田空港(第1ビル・第2ビル)、成田空港(空港第2ビル駅)にしかありません。